
はじめに 「燃費が悪い車」には理由がある
今や「燃費の良さ」はクルマ選びの基準として当たり前になりました。ガソリン価格の高騰、環境意識の高まり、そしてハイブリッド車の普及によって、ドライバーたちは「少しでも燃料代を抑えたい」と考えるようになっています。
しかしその一方で、「燃費が悪い」と言われる車たちも、確かな存在感を放っています。彼らは単に燃費が悪いわけではなく、「なぜそのような設計が選ばれているのか」に明確な理由があります。パワー、静粛性、悪路走破性、快適性、ブランド価値──それぞれが燃費とのトレードオフの上に成立しているのです。
この記事では、現在販売中の国産車の中でも特に燃費が悪い車5台を取り上げ、「なぜ燃費が悪いのか」をエンジン構造、重量、駆動方式、空力、設計思想といった視点から徹底的に掘り下げます。
この記事でわかること
この記事を読めば、次のような疑問がすべて解決します。
- 現行の国産車で燃費が悪い代表的なモデルはどれか?
- それぞれの車が燃費を犠牲にしてまで得ている性能とは?
- 燃費の悪さを生む技術的な原因は何か?
- オーナーとして燃費を少しでも改善する方法はあるのか?
- 燃費以外の価値をどう評価すればよいのか?
これを読めば、単に「燃費が悪い=ダメな車」ではなく、「設計思想と使い方を理解すれば納得できるクルマの世界」が見えてきます。
- はじめに 「燃費が悪い車」には理由がある
- 1.日産 GT-R 公表燃費 約7.8 km/L、それでも選ばれる理由
- 2.トヨタ ランドクルーザー250系 公表燃費 約7.5 km/L、本格派SUVの宿命
- 3.レクサス LX600 高級SUVの重厚さがもたらす代償
- 4.レクサス LC500 コンバーチブル V8の咆哮が生む燃費の悪さ
- 5.トヨタ アルファード(ガソリン仕様) 快適性と燃費は両立できない
- 燃費が悪い車に共通する5つの技術的要因
- まとめ 「燃費の悪さ」は欠点ではなく個性のあらわれ!
1.日産 GT-R 公表燃費 約7.8 km/L、それでも選ばれる理由
まず最初に紹介するのは、日本が誇るハイパフォーマンススポーツカー、日産 GT-R(R35)です。2007年の登場以来、幾度も改良を重ね、いまも最前線で戦う「スーパーカー」でありながら、あくまで国産車。公表燃費はWLTCモードで約7.8 km/L。現行国産車の中でもトップクラスに燃費が悪い部類です。
なぜ燃費が悪いのか エンジン設計の宿命
GT-Rの心臓部は、VR38DETT型 3.8L V6ツインターボエンジン。1台ごとに熟練の職人「匠」が手組みで製造する、極めて高精度なユニットです。最高出力は600PSに迫り、最大トルクは66.5kgf·mという化け物スペック。高出力を発生させるためにターボチャージャーは2基搭載され、高回転域まで燃料を濃く噴射する必要があります。燃焼効率よりも、パワーとレスポンスを最優先した設計思想がここにあります。
さらに、GT-Rは常時四輪駆動(ATTESA E-TS)を採用。走行状況に応じて前後のトルク配分を電子制御する高度なシステムですが、常に4輪へ動力を送るため、トランスファーやドライブシャフトなどの駆動損失が増加します。
加えて、重量は約1.8トン。剛性確保と冷却系の強化のために分厚いシャシーを採用しており、市街地では頻繁な加速・減速によって燃費が大きく落ち込みます。
結果としてGT-Rの燃費は、構造的にどうしても悪くなるのです。とはいえ、GT-Rオーナーにとって燃費は問題ではありません。この車を選ぶ理由は「加速G」と「コーナリング性能」。つまり、燃費の悪さは走りの代償であり、誇りでもあります。
2.トヨタ ランドクルーザー250系 公表燃費 約7.5 km/L、本格派SUVの宿命
次に挙げるのは、トヨタの象徴ともいえるSUV「ランドクルーザー」。その中でも250系のガソリンモデルは、WLTCモードで約7.5 km/Lという数値を記録しています。これもまた、明確な理由があります。
オフロード性能を最優先にした設計
ランドクルーザーの本質は「どんな道でも走り抜ける」こと。ボディ構造はラダーフレームを採用し、ねじり剛性を高めて悪路走行時のねじれに耐える設計です。この構造自体がモノコックに比べて重く、燃費を悪化させる大きな要因になります。
また、駆動方式はフルタイム4WD。悪路走破性を高めるため、センターデフやトランスファーを介して常に4輪に駆動力を分配します。これにより舗装路での駆動抵抗が増え、燃費を押し下げる要因になります。
さらに、車体の高さと形状も無視できません。大型ボディと直立したフロントマスクは空気抵抗(Cd値)を悪化させ、高速巡航時の燃費を削ります。タイヤも悪路用のオールテレーン系で、転がり抵抗が高い仕様です。
技術的視点:エンジンとトランスミッションの関係
ガソリンエンジンは2.7Lクラスの自然吸気型。低回転でのトルクを確保するために燃料噴射を濃く設定し、ギア比も低速重視。結果として、高速道路よりも低速走行時に燃費が悪化しやすいという特徴があります。
つまり、ランドクルーザーの燃費が悪いのは「悪路走破性能」と「耐久性」を最優先にした設計思想が理由。オフロードを走らない人にとっては過剰性能とも言えますが、世界各地で信頼され続ける理由はまさにこの堅牢さにあります。
3.レクサス LX600 高級SUVの重厚さがもたらす代償
トヨタのプレミアムブランド「レクサス」の最上級SUV、LX600。WLTCモードでは約9.3 km/Lと、同クラスの大型SUVとしても低い値を示しています。
LX600はランドクルーザーとプラットフォームを共有しながら、快適性と静粛性を極限まで高めたモデルです。そのため、燃費に対してはまったく別のアプローチが取られています。
重量と空力、そしてエンジンの特性
LX600に搭載されるのはV6 3.5Lツインターボエンジン。最大出力は415PS、最大トルクは66.3kgf·m。ターボエンジンながら、アクセル操作に対する応答性と静粛性を重視したセッティングです。その結果、タービンを回すための排気エネルギーと燃料が多く必要になり、特に低速域では燃費が悪化します。
また、豪華な内装装備が加わることで、車両重量は2.5トン近くに達します。エアサスペンション、電動ステップ、遮音材、シートヒーター・ベンチレーター、電動サードシートなど──すべてが燃費の敵となる“重量”を増加させます。
空力面でもSUVの宿命があります。Cd値(空気抵抗係数)は0.35前後とされ、セダンやクーペ(0.25〜0.28前後)に比べて明らかに不利。高速走行では空気抵抗による燃料消費が急増します。
それでもLXが選ばれる理由
LXは、静粛性・乗り心地・存在感という三拍子を兼ね備えた唯一無二の国産SUV。燃費を犠牲にして得られる「移動空間としての贅沢さ」は、他車では代えがたい魅力です。
4.レクサス LC500 コンバーチブル V8の咆哮が生む燃費の悪さ
LC500コンバーチブルは、レクサスが誇るフラッグシップクーペ。5.0LのV8自然吸気エンジンを搭載し、WLTCモードで約8.0 km/Lという数値を示しています。
自然吸気エンジンがもたらす“燃焼効率の限界”
このV8エンジンは、ハイブリッド全盛の時代にあってあえてターボを使わず、「レスポンスと音」を優先した設計。吸気を自然に取り込み、回転数で出力を稼ぐため、高回転域では燃料噴射が濃くなる傾向にあります。燃焼効率の観点からはターボやHVに劣りますが、その代わりドライバーはアクセル操作にダイレクトな反応を得られるのです。
さらに、コンバーチブル化による補強部材と電動ルーフ機構が加わり、車重は2トンを超えます。この重量増加が燃費に大きく影響します。剛性を保ちながら開閉式ルーフを実現するには、車体下部に強固なクロスメンバーを追加する必要があり、これが大きな質量を占めます。
また、LC500のギア比はスポーツ走行を前提に設定されています。10速ATのうち、低速ギアは加速性能重視のため燃費効率が悪く、高速域でようやく効率的な燃焼領域に入ります。市街地走行ではエンジン回転数が上がりやすく、燃費を圧迫します。
ドライバーにとっての価値
V8の鼓動、滑らかな加速、開放感ある走り──これらを感じられる車は、もはや希少。LC500の燃費の悪さは「感性を満たす代償」であり、合理性を超えた存在です。
5.トヨタ アルファード(ガソリン仕様) 快適性と燃費は両立できない
最後に紹介するのは、日本のミニバンの代名詞ともいえるアルファード。現行モデルのガソリン仕様はWLTCモードで約10.3〜10.6 km/L。ハイブリッドに比べるとおよそ1.5倍以上燃料を消費します。
快適性・静粛性・車重が生む燃費の壁
アルファードは「移動するリビングルーム」と称されるほどの快適空間を持ちます。その快適性を生むために、厚い遮音材、電動シート、エアコン吹き出し口の多重化、電動スライドドア、電子制御サスペンションなどを搭載。これらの装備がすべて重量増となり、最上級グレードでは車両重量が2トンに迫ります。
また、ボディ形状も空力的に不利。背が高く、フロントも垂直に近いデザインのため、風の抵抗が強く、高速域では燃費が悪化します。加えて、乗車人数が多い場合やエアコンの使用頻度が高い夏場は、燃料消費がさらに増えます。
エンジンは2.5L直列4気筒NA。ハイブリッド版に比べると低回転トルクが不足し、発進時にアクセルを踏み込む必要があり、これが燃費をさらに悪化させます。
対策:燃費を少しでも良くするには
日常的にできる改善策としては、積載物の軽減とエアコンの適正使用。送迎で短距離走行が多い人は、エンジンが温まる前に停止することが多く、燃料消費が増えるため、できればまとめて用事を済ませるなど“走行回数を減らす”ことも有効です。
燃費が悪い車に共通する5つの技術的要因
ここまで5台を見てきましたが、共通する技術的特徴は以下の通りです。
1. 大排気量エンジン(3.5L〜5.0L)
2. 常時4WDや高負荷駆動系による機械損失
3. 高重量(1.8〜2.5トン)による慣性損失
4. 空力的に不利な車体形状
5. 快適装備や高剛性構造による重量増
つまり、燃費が悪い車は「パワー・快適性・信頼性・デザイン」といった他の性能を優先した結果です。
まとめ 「燃費の悪さ」は欠点ではなく個性のあらわれ!
燃費が悪いということは、それだけ「エネルギーを使って何かを実現している」ということでもあります。たとえばGT-Rなら爆発的な加速、ランドクルーザーなら悪路走破性、レクサスなら静粛性と上質感。燃費は、その裏にある「哲学の証」なのです。
確かに、燃費が良い車は経済的で環境に優しい。しかし、燃費が悪い車には「燃料を使う喜び」という感覚的な価値があります。ハンドルを握った瞬間に伝わる鼓動、エンジン音、車体の一体感──それらは数字には置き換えられません。
もしこの記事を読んで「燃費が悪い車にも理由がある」と感じてもらえたなら、それだけでクルマという存在を少し深く理解できたはずです。燃費という数値の裏にある“人間の情熱”を、これからも感じてみてください。