はじめに:なぜ今「衝突軽減装置」が注目されるのか
ここ数年、自動車の安全装備の中で最も注目されているのが「衝突軽減装置(AEB:Autonomous Emergency Braking)」です。かつては高級車や一部の先進車だけの特権だったこの装備も、今では軽自動車からSUVまでほとんどの新車に搭載されています。 この記事では、衝突軽減装置の仕組み、進化の過程、そして日本車・外国車それぞれの特徴を一般ユーザー向けにわかりやすく解説します。

この記事でわかること
・衝突軽減装置の基本的な仕組み
・自動ブレーキが登場してからの技術進化
・主要日本メーカーのシステムの違い
・外国車メーカー(メルセデス・ボルボ・テスラなど)の特徴 ・実際の効果、限界、注意点
・これからの安全技術の方向性
- はじめに:なぜ今「衝突軽減装置」が注目されるのか
- この記事でわかること
- 衝突軽減装置の基本構造と仕組み
- 衝突軽減装置の進化の歴史
- 日本メーカーの衝突軽減装置
- 外国メーカーの衝突軽減装置
- 比較と特徴の違い
- 実際の効果と事故削減データ
- 苦手なシーンと作動限界
- メンテナンスと誤作動防止のコツ
- これからの進化 — AIと自動運転の融合
- まとめ — 安全を「装備」から「文化」へ
衝突軽減装置の基本構造と仕組み
衝突軽減装置(AEB)は、センサーで前方の車両や歩行者を検知し、衝突の危険があると判断した際に自動でブレーキをかける仕組みです。 基本構成は「カメラ」「レーダー」「制御ユニット」の3つ。カメラは対象物の形状を、レーダーは距離と速度差を把握します。 この情報をもとにコンピューターが「衝突の可能性」を瞬時に判断し、必要であれば自動的に制動を行います。
衝突軽減装置の進化の歴史
初期の自動ブレーキは、高速道路での追突回避に限定されていました。しかし技術の進化とともに、今では街中の低速走行時でも歩行者や自転車まで検知できるようになっています。 2000年代後半にはスバルの「EyeSight」が世界的に注目され、2010年代に入ると各社が独自のシステムを開発。現在はAIによる画像認識を活用した“学習型ブレーキ制御”へと進化しています。
日本メーカーの衝突軽減装置
トヨタ — Toyota Safety Sense
トヨタの「Toyota Safety Sense」は、日本車の中でも代表的な衝突軽減システムです。カメラとミリ波レーダーを併用することで、昼夜問わず歩行者や自転車も認識可能。 最新バージョンでは交差点での右折時の対向車や右折先の歩行者も検知し、より現実的なシーンに対応しています。 特徴は、動作範囲が広く、50〜80km/hの中速域でも自然に減速を行う点。一般ユーザーからも「違和感が少ない」と高い評価を得ています。
ホンダ — Honda SENSING
ホンダの「Honda SENSING」は、広角カメラ1基で周囲を把握するタイプ。シンプルながら高精度な画像解析を行い、歩行者・車・白線などを認識します。 加えて、衝突軽減ブレーキ(CMBS)に加え、車線維持支援や前走車追従制御なども一体化されているのが特徴です。 ホンダは人間の運転感覚に近い制御を重視しており、「警告→軽ブレーキ→自動制動」の流れが自然で、ドライバーの操作を邪魔しないよう設計されています。
スバル — EyeSight
スバルの「EyeSight(アイサイト)」は、日本で最も評価の高い衝突軽減装置の一つ。ステレオカメラのみで周囲を認識するのが最大の特徴です。 カメラ2基で立体的に距離を測り、人間の目に近い方式で前方の動きを判断します。 歩行者検知性能に優れ、誤作動が少ないことから「ぶつからない車」の代名詞とも言われています。 最新の「EyeSight X」では、高速道路でのハンズオフ運転や渋滞時支援など、自動運転レベル2相当の機能まで進化しています。
日産/三菱 — インテリジェント エマージェンシーブレーキ
日産の「インテリジェント エマージェンシーブレーキ」は、前方車両や歩行者だけでなく、交差点進入時の検知性能が高いのが特徴です。 プロパイロット(ProPILOT)機能との連携で、高速道路での追従走行中も安全に制御。 三菱自動車も同系統の技術を採用しており、レーダーとカメラを融合させた制御で安定したブレーキ性能を実現しています。
マツダ — i-ACTIVSENSE
マツダの「i-ACTIVSENSE」は、ドライバーと車が協調して安全を作るという思想のもと設計されています。 カメラ+ミリ波レーダーで前方・側方・後方まで監視し、対象が近づくとまず音と表示で警告、その後自動制動。 自然な減速感と、夜間の歩行者検知の強化が進んでいます。
スズキ — デュアルカメラブレーキサポート
軽自動車でも高い安全性能を誇るのがスズキの「デュアルカメラブレーキサポート」。 2つのカメラで前方を立体的に把握し、低速時の歩行者・自転車にも対応。 軽自動車ユーザーにも手の届く価格で実用的な安全性を提供している点が魅力です。
ダイハツ — スマートアシスト
ダイハツの「スマートアシスト」は、軽自動車向けの代表的な安全装置。 カメラやソナーを組み合わせ、前後方向の障害物にも対応します。 低速域での誤発進抑制など、日常で役立つシーンを想定しており、初心者や高齢者にもやさしい構造です。
外国メーカーの衝突軽減装置
メルセデス・ベンツ — Active Brake Assist / PRE-SAFE
メルセデスは衝突軽減装置の分野でも先駆的存在です。 「Active Brake Assist」は前方車両や歩行者、自転車まで検知し、危険を感知すると自動ブレーキを作動。 さらに「PRE-SAFE」システムが作動すると、衝突前にシートベルトを引き締めたり、窓を閉めたりといった“予防安全”動作まで行います。 まさに「事故を未然に防ぐ総合システム」と言えます。
アウディ — Audi Pre Sense
アウディの「Pre Sense」は、車両の周囲を360度監視し、衝突の危険を検知すると警告・ブレーキを実施します。 特に「Pre Sense City」では都市部での低速衝突を重視しており、歩行者や自転車にも対応。 衝突前にはシートベルトを引き締めたり、サンルーフを閉じるなどの準備動作を行い、被害を最小化します。
BMW — Frontal Collision Warning with City Mitigation
BMWの衝突軽減装置は「Frontal Collision Warning with City Mitigation」という名称で、都市部での追突事故防止を主目的としています。 警告から自動制動までの反応がスムーズで、運転者の意図を尊重する制御が特徴。 車線維持支援や歩行者検知なども統合され、運転全体を支えるADASの一部として動作します。
ボルボ — City Safety
安全性で世界的に評価の高いボルボは、「City Safety」という独自技術を採用。 低速〜中速域での衝突防止に強く、歩行者・自転車・大型動物まで検知します。 早くから夜間対応を実現しており、雪国や暗所走行時でも安心できる設計です。 「人を守る車」というブランド哲学が技術に反映されています。
テスラ — Autopilot / Collision Avoidance
テスラの「Autopilot」には、衝突軽減ブレーキが統合されています。 車載カメラとAIによる画像解析で前方の車両・歩行者・障害物を認識し、状況に応じて減速や停止を行います。 最大の特徴は、ソフトウェア更新(OTA)で機能が常に進化する点。 ユーザーが車を買った後も安全性が向上するという、他にはない仕組みです。
比較と特徴の違い
日本車は「自然な動作と誤作動の少なさ」、外国車は「高度な統合制御と多層的な安全設計」が特徴です。 例えばスバルのEyeSightは誤作動が少なく滑らか、メルセデスは事故前の予防動作が優れ、テスラは学習型AIによるアップデートが魅力。 それぞれの方向性は違いますが、目指す目的は同じ、「人命を守ること」です。
実際の効果と事故削減データ
国土交通省の調査によれば、AEB搭載車は非搭載車に比べて追突事故が約90%減少しています。 特に低速時の追突事故では効果が顕著で、軽自動車でも導入が進むことで社会全体の事故件数が確実に減少しています。
苦手なシーンと作動限界
カメラ式は強い逆光や濃霧に弱く、レーダー式は小型の物体検知が苦手です。 また、雪でセンサーが覆われたり、道路標識を車と誤認するなど、環境によって性能が低下することがあります。 ユーザーが定期的にセンサー清掃を行うことで、誤作動防止に役立ちます。
メンテナンスと誤作動防止のコツ
センサー周囲の汚れは誤検知の原因になります。洗車時にカメラやレーダー部分を柔らかい布で拭くのが効果的です。 また、フロントガラスの交換やバンパー修理を行った場合は、再調整(キャリブレーション)が必要なこともあります。 販売店で定期点検を受けることが安全維持の近道です。
これからの進化 — AIと自動運転の融合
今後の衝突軽減装置は、AIと通信技術の融合によってさらに進化します。 「V2X通信(車車間・路車間通信)」を利用して、見えない交差点の先にいる車や歩行者を検知できるようになるでしょう。 また、AIがドライバーの癖を学習し、運転スタイルに合わせてブレーキタイミングを最適化する時代も目前です。
まとめ — 安全を「装備」から「文化」へ
衝突軽減装置は、単なる“装備”ではなく、私たちの命を守るための“文化”になりつつあります。 トヨタやホンダのような国産車、メルセデスやボルボのような欧州車、どのメーカーにも共通しているのは「安全はすべてに優先する」という信念です。 これから車を選ぶときは、デザインや燃費だけでなく、「安全装備がどこまで進化しているか」もぜひ注目してください。 その一つの選択が、未来の交通社会をより安全で優しいものにしていきます。