対物賠償2,000万円で十分?無制限をすすめる理由を整備士が解説
自動車保険の見積もりを取っていると、「対物賠償2,000万円」と「無制限」で保険料が違うのですが、数百円でも安くなるなら、2,000万円で十分じゃないか。そう思う人もいるかもしれません。
でも、事故で車が壊れるだけならまだしも、相手が店舗だったり、ガードレールや電柱だったり、さらに大きな設備や積み荷まで巻き込んだりすると、損害額は一気に大きくなります。
私は整備士として20年以上、事故で入庫してくる車を見てきました。実際の現場では「こんなところまで壊れるのか」と思うような事故もあります。修理する車だけを見ていると分かりにくいのですが、事故の相手が増えたり、周囲の設備まで壊れたりすると、損害はどんどん膨らんでいきます。
だから私は、自動車保険を見直すときに「対人・対物をいくらにするか」は、保険料だけで決めないほうがいいと考えています。そこで対人・対物の中身と、自賠責だけでは足りない理由、それに実際に起きた高額賠償の話を、順番に解説していきます。
この記事で分かること
- 対物賠償を2,000万円ではなく無制限にすすめる理由
- 対物賠償が2,000万円では足りない可能性があるケース
- 2,000万円と無制限で保険料はどれくらい違うのか
- 実際に高額となった対物賠償の判決例
- 無制限でも「何でも無条件に」補償されるわけではないこと
- 対人賠償や自分側の補償との違い
- 保険料を安くしたいなら、どこを見直すべきか
目次
1.対物保険は無制限をすすめる理由

対物賠償保険は、事故で相手の車や建物、設備などを壊してしまったときの賠償責任をカバーする補償です。自賠責保険はこの対物事故を一切補償していません。任意保険の対物賠償だけです。2,000万円という金額は、一般的な乗用車同士の事故なら足りることが多いものの、相手が高級車だったり、輸送中の商品や店舗、鉄道の設備を巻き込んだりすると超えてしまうことがあります。無制限にしても保険料への影響は契約条件によっては小さいため、下げて浮く保険料と、超えた場合の自己負担額を比べれば、無制限にしましょう。
2. 対物賠償が2,000万円では足りない場合

対物賠償の対象は、相手の車の修理費だけではありません。ここが対物賠償の怖いところです。壊れた車だけを直せば終わり、とは限りません。ぶつかった相手が高額な商品を輸送中のトラックだったり、店舗や住宅、鉄道の施設だったりすると、休業損害や代車費用、運行にかかる損害まで賠償の範囲に入ってきます。相手が新しい高級車なら、修理費だけで数百万円という額も珍しくありません。
特に見落とされがちなのが、踏切内での事故や、輸送中の商品を積んだ車との事故です。壊した物そのものの価格だけでは済みません。代替の手配にかかる費用や事故対応の人件費まで賠償額に乗ってきます。だから2,000万円を超える可能性が、他の事故より高くなります。
整備工場に入ってくる事故車を見ていると、外から見た損傷だけでは金額が分からないことがよくあります。バンパーがへこんだだけに見えても、センサーやフレームまで交換となれば修理費は一気に跳ね上がります。相手の車がそういう状態だったら、と考えると、2,000万円という金額も決して多い金額ではありません。具体的な金額は4章で見ていきます。
3. 2,000万円と無制限で保険料はどれくらい違うのか

対物賠償を2,000万円か無制限にするかで、保険料がどれくらい変わるかは気になるところです。ある保険会社が公開している試算例では、対物賠償を2,000万円に設定した場合と無制限にした場合とで、年間の保険料差が30円程度という結果が出ています。ただし保険料は年齢条件、車種、等級、使用目的、地域、契約する保険会社で大きく変わるので、この数字をそのまま自分の契約に当てはめることはできません。
それでも、2,000万円に下げて得られる節約効果は、賠償リスクの大きさに見合わないことが多いです。私なら、一度は見積もりを取って、自分の契約条件で対物賠償の金額を変えると保険料がどれくらい変わるか確かめます。差額が数十円から数百円程度なら、無制限を選びやすくなるはずです。
出典:ソニー損保「対人対物無制限とは?保険金額を無制限にする理由を解説」(特定の契約条件による試算例)
対物賠償を無制限にした場合、実際の保険料がいくらになるかは契約する保険会社や条件によって変わります。一括見積もりサービスを使えば、複数社の保険料を一度に比較できるので、無制限にしても総額でどれくらいの差になるか確かめられます。
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4. 実際に高額となった対物賠償例

1992年に千葉県のJR成田線大菅踏切で起きた事故では、過積載のダンプカーが下り坂でブレーキが効かなくなって踏切に突っ込み、列車と衝突しました。この事故でダンプカーの運転手や荷主、砕石会社などに命じられた損害賠償額は、合計で1億1,347万6,892円にのぼります。内訳は列車車両の廃車費用が約3,400万円、車両の修繕費用が約3,770万円、線路や通信設備の修繕費用が約1,710万円、事故対応にかかった人件費が約1,660万円、乗客の代行輸送費用が270万円などとなっています。
もう一つの例が、高速道路で荷崩れを起こしたトラックの事故です。呉服や毛皮などを積んだトラックが前走車に追突した後、中央分離帯に乗り上げて対向車線に飛び出し、横転・炎上して積荷を焼失しました。裁判所は積荷の損害額を2億6,135万円と認定しています(荷主側の過失が認められ、実際に運送会社が支払う金額は約1億3,067万円に減額されています)。
この2つの事故を見ると、物損事故は「壊した物の修理代だけ」では終わらないことが分かります。車両や設備の修繕費に加え、事故対応の人件費や代替輸送の費用まで賠償の範囲に入ってきます。2,000万円という金額は、こうした事故では簡単に超えてしまいます。自賠責保険は対物事故を一切補償しません。だからこそ、対物賠償を無制限にしておく必要性があります。
出典:オリコンニュース「物損事故“高額賠償”4つの判例」、インズウェブ「交通事故の物損高額ランキング」(神戸地裁 平成6年7月19日判決、物的損害額2億6,135万円の事案)
5. 対人・対物は本当に無制限が必要?

私なら、対人・対物は無制限にします。保険料を少し安くするために、ここを削るメリットがあまりないからです。
自賠責保険は対人賠償のみが対象で、死亡最高3,000万円、後遺障害最高4,000万円、傷害最高120万円という限度額があり、対物事故は一切補償されません。しかも、実際にはこの限度額をはるかに超える賠償になった事故もあります。裁判例では人身総損害額が5億円を超える判決も出ていますし、対物についても4章で見た踏切事故のように1億円を超える判決が出ています。2,000万円や3,000万円では届かないケースは、決して珍しくありません。
それなのに、対物を2,000万円から無制限にしても、3章で見た通り保険料が大きく変わるとは限りません。自賠責では足りない。実際に億単位の賠償もある。それでいて保険料はさほど変わらない場合もある。だったら、私はわざわざ2,000万円に下げる必要はないと思います。対人賠償は無制限のみでしか契約できない保険会社も増えており、対物賠償とセットで無制限にしておくと安心です。
出典:国土交通省ウェブサイト、政府広報オンライン、インズウェブ「交通事故の死亡・後遺症賠償額の高額ランキング」(横浜地裁 平成23年11月1日判決、人身総損害額5億2,853万円の事案)
6. 無制限でも「何でも無条件に」補償されるわけではない

「対物無制限」という言葉から、事故の相手にどんな損害を与えても際限なく保険金が支払われるとイメージしてしまいがちですが、そうではありません。無制限が意味するのは保険金額に上限がないということであって、支払われる金額は「法律上の損害賠償責任」の範囲内にとどまります。
具体的には、事故で相手の車が損傷した場合、保険金の算定基準になるのは修理費そのものではなく、事故が起きた時点での車の「時価額」です。年式の古い車なら、修理費が100万円かかる損傷でも、時価額が80万円であれば法律上の賠償責任は80万円までとなり、支払われる保険金もその範囲にとどまります。この話は、整備工場でも一番説明に困る場面です。見積もりを出すと「うちの車、直せば100万円かかるのに保険では80万円しか出ないんですか」と聞かれることが何度もあります。古い車ほど直しがいがあっても、保険の世界では時価額が優先される仕組みを理解していないと、修理費との差額が「なぜか払ってもらえないお金」に見えてしまうのだと思います。
また、無制限であっても保険契約上の支払条件を満たしていないといけません。飲酒運転や無免許運転、故意による事故など、保険契約の免責事由に該当する場合は、対物賠償の金額を無制限にしていても保険金が支払われません。無制限はあくまで「上限を設けない」という意味であり、支払いの可否や算定方法そのものを変えるものではないと覚えておいてください。
7. 自動車保険の補償と違い

自動車保険にはさまざまな補償が組み合わさっているため、それぞれが「誰のための補償か」を整理しておくと分かりやすくなります。
主な補償と対象
| 補償 | 誰のための補償か |
|---|---|
| 対人賠償保険 | 事故で死傷させた相手(他人) |
| 対物賠償保険 | 事故で壊した相手の車・建物などの財物 |
| 人身傷害保険 | 自分や同乗者がケガをした場合の補償 |
| 搭乗者傷害保険 | 契約車両に乗っていた人がケガをした場合の補償 |
| 車両保険 | 自分の契約車両の損害 |
対人・対物は「相手」への補償、人身傷害保険や車両保険は「自分側」への補償です。無制限にすべきかどうかという話は対人・対物に限った話であり、自分側の補償は別枠として加入状況を確認しておきましょう。
8. 保険料を安くしたいなら、どこを見直すべきか

対物賠償の金額を下げるより先に見直せる項目があります。まず運転者の年齢条件と範囲です。実際に運転する人の年齢や範囲より広く設定していると、必要以上の保険料を払っていることがあり、運転者限定特約や年齢条件を実態に合わせるだけで保険料が下がることもあります。
車両保険を付けている場合は、免責金額(自己負担額)の設定も見直しの対象です。免責金額を上げると、修理費の自己負担が増える代わりに保険料は下がります。小さな傷なら自費で直すつもりがあるなら、免責金額を上げて保険料を抑える手もあります。あわせて、車両保険の補償範囲を「一般型」から「エコノミー型(車対車+限定危険型)」に変更するのも、補償を絞って保険料を下げる方法です。
そのほか、走行距離の申告区分を実態に合わせる、代理店型からダイレクト型(通販型)への切り替えを検討する、複数年契約や証券の電子化割引を活用するといった見直しも、対人・対物の補償額を削るより保険料への影響が大きくなりやすい項目です。等級や無事故の継続によって保険料が下がる仕組みもあるので、更新のたびに複数社の見積もりを比較して、条件に合った保険会社を選び直すのも一つの手です。
9. 見直すときにチェックしたいポイント
更新前なら、一度くらい補償内容を見比べておいて損はありません。私が見るなら、まず対人賠償と対物賠償がセットで無制限になっているかどうかです。片方だけ無制限で、もう片方に上限が設定されたままになっている契約を見かけることがあります。特に対物賠償は金額を選べる保険会社が多いため、見落とされやすいところです。
あわせて確認したいのが、示談交渉サービスの有無と、弁護士費用等特約の付帯状況です。対人・対物の補償金額を無制限にしていても、示談交渉を保険会社が代行してくれるかどうかは契約によって異なります。もらい事故のように自分の過失がゼロに近いケースでは、保険会社が示談交渉に介入できないことがあるため、弁護士費用等特約を付けておくと心強いはずです。
10. よくある質問
Q. 対物賠償を2,000万円にしていましたが、今から無制限に変更できますか。
A. 契約している保険会社に連絡すれば、多くの場合は保険期間の途中でも補償内容の変更手続きができます。次の更新を待たず、気づいた時点で見直すのがおすすめです。
Q. 対物は無制限、対人は3,000万円というように分けてもいいですか。
A. 選ぶこと自体は可能ですが、対人賠償は人身損害の裁判例で5億円を超える判決も出ているため、3,000万円では足りない可能性が対物以上に高くなります。対人・対物ともに無制限にしておくほうが安心です。
Q. 対物無制限にしていれば、相手の車の修理費は全額支払ってもらえますか。
A. 支払われるのは法律上の賠償責任の範囲内です。相手の車が年式の古い車の場合、算定の基準になるのは時価額であり、修理費が時価額を上回る部分は法律上の賠償責任に含まれないことがあります。無制限は上限を設けないという意味で、算定方法そのものを変えるものではありません。
まとめ
保険料を少しでも安くしたい気持ちは分かります。ただ、対人・対物だけは、私は削らないようにしましょう。
事故は「この程度だろう」と思った金額で収まるとは限りません。車を修理するだけなら数十万円で済む事故でも、相手の仕事や設備まで絡むと話が変わります。踏切事故で1億円超、輸送中の商品損害で2億円を超える賠償判決が出ているのも、そうした事故です。
保険料を下げるなら、対人・対物の補償額ではなく、ほかの部分から見直しましょう。
そんなときは一括見積で安い保険会社やプランを見直してみましょう。
LINK Motors
対人・対物を無制限にしつつ保険料を抑えたいなら、まずは複数社の見積もりを比較してみるのが近道です。一括見積もりなら、今の契約条件のまま対物無制限で他社の保険料がいくらになるか、まとめて確認できます。
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