
車が冠水して動かない!水没したときの脱出方法と絶対にしてはいけないこと
雨が急に強くなり、気づけば前を走る車が水しぶきを上げている。そんな状況で「このまま進んでいいのか、引き返すべきか」を一瞬で判断しなければならない場面は、誰にでも起こり得ます。台風や線状降水帯によるゲリラ豪雨は年々予測が難しくなっており、いつも通っている道が突然冠水することも珍しくありません。
私は整備士として20年以上、水没や冠水によって持ち込まれた車両を見てきました。エンジンが完全にダメになってしまった車もあれば、幸い被害が小さく済んだ車もあります。その差を分けるのは、多くの場合「ドライバーがその場でどういう行動をしたか」です。知識があるかないかで、車の被害だけでなく命に関わる結果にもつながります。
この記事では、運転中に水害に遭遇したときに何をすべきか、そして何をしてはいけないのかを、できるだけ詳しく整理しました。JAFや国土交通省、保険会社など情報源をもとにまとめていますので、いざというときの判断材料として役立てていただければと思います。
この記事で分かること
- 冠水した道路を見分けるポイントと、進入してはいけない理由
- 万が一水の中で車が動かなくなったときにとるべき行動の順番
- ドアが開かないときの窓からの脱出方法と注意点
- 脱出後や水が引いた後に絶対にしてはいけないこと
- 水没した車の修理や自動車保険の考え方
目次
なぜ車は水に弱いのか

車は金属の箱に見えるため、多少の水なら平気だろうと感じてしまう方も多いのですが、実際にはボディは固いですが中見は水に弱い乗り物です。エンジンは空気を取り込んで燃料と混ぜて燃焼させる仕組みになっており、その空気を取り込む吸気口が水につかってしまうと、空気の代わりに水を吸い込んでしまいます。水は空気と違って圧縮できないため、エンジン内部で大きな圧力がかかり、コネクティングロッドと呼ばれる部品が曲がったり折れたりする「ウォーターハンマー現象」という深刻な故障につながります。こうなるとエンジンの載せ替えが必要になるほどの大きな修理になることもあります。
また、最近の車は電子制御の部品が非常に多く使われています。エンジンやブレーキ、パワーウインドウなどを制御するコンピューターやセンサー、配線は車体の下側に配置されているものも多く、床下まで水が達するとショートや腐食の原因になります。見た目には水が引いて何ともないように見えても、内部の電子部品がじわじわとダメージを受けていることがあり、後日になって様々な不具合が出てくることもよくあります。
冠水した道路に遭遇したときは

まず大前提として、冠水している道路には進入しないことが最も安全です。浅そうに見えても、運転席から水深を正確に判断することは非常に困難です。道路脇の側溝や凹凸によって、見た目以上に深い場所が隠れていることもあります。
とはいえ、判断の目安が欲しいという方のために、周囲にあるものから水深を推測する方法をご紹介します。道路の端にある歩道の縁石は、一般的に高さが15センチメートルから20センチメートルほどあります。この縁石がはっきり見えている状態であれば水深はまだ浅い可能性がありますが、縁石が見えなくなっている、あるいはタイヤの半分以上が水に隠れているような状態であれば、水深はかなり深いと考えられます。この段階まで来ている場合は、無理に進もうとせず、安全な場所までバックするか、別の道を探してください。
普段からハザードマップや、自治体および国土交通省が公開している冠水しやすい箇所の情報を確認しておくことも有効です。過去に冠水したことのある道路、特にアンダーパスと呼ばれる立体交差の下をくぐる道路は、水が集まりやすい構造になっているため、大雨の予報が出ている日には避けるルートを考えておきましょう。
万が一、水のある道路を走ることになった場合の運転の仕方

やむを得ず浅い水たまりのような場所を通過しなければならない場合は、速度を落とし、一定の速さでゆっくりと進むことが大切です。速度を上げてしまうと、フロントガラスに向かって水しぶきが跳ね上がり、その水がエンジンルームの吸気口に入り込んでエンジンが停止してしまう恐れがあります。また、対向車が起こした波をかぶって自分の車が止まってしまうこともあるため、対向車とのすれ違いにも注意が必要です。
途中でアクセルを緩めたり、ブレーキを踏んで止まったりすることも避けたほうがいいです。止まってしまうと排気管の出口が水につかり、水圧で排気ガスが出せなくなってエンジンが止まってしまうことがあるためです。ただし、これはあくまで浅い水たまりを想定した話であり、明らかに深い冠水路であれば、進入せずに回り道を探してください。
車が動かなくなった・車内に水が入り始めたときの対処法

冠水路の途中で車が動かなくなってしまった場合は無理にアクセルを踏み続けたり、何度もエンジンをかけ直したりしないでください。まずは周囲の安全を確認し、可能であれば速やかにドアを開けて車外へ避難することを優先します。シートベルトを外し、落ち着いて状況を確認しましょう。
この時点で水位がまだ車の床面より低ければ、慌てず落ち着いてドアを開け、片足ずつゆっくりと水につけながら水深を確かめ、来た方向へ歩いて戻ります。冠水した水は濁っていることが多く、マンホールの蓋が外れていたり、側溝が見えなくなっていたりする危険があるため、一歩ずつ足元を確かめながら進むことが重要です。
問題は、車内にまで水が入り始めてしまった場合です。この段階になると、次に説明する脱出の判断が必要になります。
車内から脱出する方法

車内に水が浸入してきた場合、まず試みるべきは窓からの脱出です。浸水の初期段階であれば、電動のパワーウインドウがまだ動く可能性があるため、あきらめずにスイッチを操作してみてください。窓が開けば、そこから外に出ることができます。
ここで知っておいていただきたいのが、ドアの開けにくさについてです。車の外側の水位が高く、車内との水位差が大きい状態では、水圧によってドアを開けることが非常に難しくなります。パニックになって力任せにドアを押しても開かないことが多いため、まずは窓からの脱出を考えてください。
窓も開かない場合は、車内に備えている脱出用ハンマーやシートベルトの硬いところでガラスを割ることになります。このとき注意したいのは、フロントガラスとリアガラスです。これらは合わせガラスと呼ばれる構造になっており、通常のハンマーでは割れにくい仕様になっています。割るべきは側面や後方のドアガラスで、こちらは強化ガラスが使われており、ハンマーの先端を窓の角(端の方が割れやすい構造になっています)に当てることで比較的割りやすくなっています。まだ脱出用ハンマーを車に備えていないという方は、この機会に助手席やドアポケットなど、すぐ手が届く場所への設置を検討されることをおすすめします。
もしドアも窓もハンマーもなく、脱出できない状況になってしまった場合でも、慌てないことが何より重要です。車は思っている以上に浮力があり、すぐには沈みません。車内外の水位差が小さくなると、ドアにかかる圧力差も小さくなり、開けられる可能性があります。ただし、水位が上がる前に窓やドアから脱出することが最優先です。同乗者、特に子どもがいる場合は、その場の状況に応じて安全に脱出できる順序を判断します。あらかじめ家族と脱出の流れをシミュレーションしておくと、いざというときにも落ち着いて行動しやすくなります。
電動ロックを使っている車は、水没が始まる前の段階で、各ドアにある手動の解除レバーやノブを操作し、ロックを解除しておくことも有効とされています。浸水後は電気系統が正常に動作しなくなる可能性があるためです。
脱出後・水が引いた後にすべきこと、してはいけないこと

無事に車外へ脱出できたら、まずは自分や同乗者の安全を確保し、可能であれば周囲の人にも冠水の状況を知らせてください。車自体は後からでも対処できますが、命の安全が最優先です。
車内が浸水してしまった車については、水が引いた後であっても、自分の判断でエンジンをかけることは絶対に避けてください。見た目には問題がないように見えても、電子部品や配線の内部にダメージが残っている場合があり、エンジンをかけることで破損が広がったり、感電の危険が生じたりする可能性があります。まずはJAFのロードサービスや、購入した販売店、信頼できる整備工場に連絡し、専門家による点検を受けることが大切です。整備士の立場からも、水没歴のある車を安易に動かすことはおすすめできません。
水没した車の修理や保険について

水没した車が修理できるかどうかは、浸水した高さや水没していた時間、水の種類(真水か海水か)などによって大きく変わるため、一律には言えません。この点については、実際に車両を点検した専門家の判断によるところが大きく、ここで断定的なことは申し上げられません。まずは点検を受け、修理が可能かどうか、修理費用がどの程度かかるかを確認することが第一歩になります。
自動車保険については、車両保険に加入している場合、水害による損害が補償の対象になることが一般的です。ただし、地震や噴火によって発生した津波による損害は、多くの保険会社で補償の対象外とされている点には注意が必要です。契約している保険の内容がどうなっているかは、保険会社や代理店に直接確認することをおすすめします。全損と判定された場合の扱いや、免責金額の有無なども保険会社によって異なるため、契約内容を事前に把握しておくと、いざというときに慌てずに済みます。
日頃からできる備え

水害は前触れなく起こるものではなく、多くの場合、大雨や台風といった予報を通じて事前に察知することができます。天気予報で大雨や豪雨の可能性が伝えられている日には、できる限り車での外出を控えるという判断が、最も確実な備えになります。
また、自宅や職場の周辺、よく通る道の中に冠水しやすい場所がないかを、国土交通省のハザードマップポータルサイトなどであらかじめ確認しておくことも役立ちます。過去に冠水した実績のある道路は、次に大雨が降ったときにも同じように冠水する可能性が高いため、代わりのルートを頭に入れておくと安心です。
車内の備えとしては、脱出用ハンマーを運転席や助手席のすぐ手が届く場所に用意しておくことをおすすめします。トランクやグローブボックスの奥にしまい込んでしまうと、いざというときに取り出せません。あわせて、家族や同乗することの多い人と一緒に、脱出の手順を一度話し合っておくと、実際の場面でも落ち着いて行動しやすくなります。
よくある質問
Q. 冠水した道路を低速で走れば大丈夫ですか。
水深が浅く、縁石がはっきり見えているような状態であれば、速度を落として通過できる場合もあります。ただし運転席から正確な水深を判断することは難しく、見た目より深いことも多いため、冠水している道路にはそもそも進入しないという判断が最も安全です。
Q. パワーウインドウが動かないときはどうすればよいですか。
浸水によって電気系統が正常に働かなくなると、パワーウインドウが動かなくなることがあります。その場合は、車内に備えた脱出用ハンマーで側面や後方のガラスを割って脱出します。フロントガラスとリアガラスは割れにくい構造になっているため、避けるようにしてください。
Q. 水が引いたあと、車のエンジンをかけても大丈夫ですか。
車内まで浸水した車は、見た目に問題がなくても内部にダメージが残っている可能性があるため、自己判断でエンジンをかけるのは避けてください。JAFのロードサービスや販売店、整備工場に連絡し、専門家の点検を受けてから判断することをおすすめします。
Q. 水没した車は必ず修理できますか。
浸水の程度や時間、水の種類などによって状況が大きく異なるため、必ず修理できるとは言い切れません。この点については実際に点検してみないと判断がつかないため、まずは専門家に見てもらうことが必要です。
まとめ
運転中に水害に遭遇したときに最も大切なのは、冠水した道路に進入しないという判断です。それでも状況が急変し、車が動かなくなったり車内に水が入ってきたりした場合は、初めに窓を開け、エンジンを止め、落ち着いて窓からの脱出を試み、それが難しければ脱出用ハンマーでガラスを割るという手順を、頭の中で整理しておくことが命を守ることにつながります。ドアが開きにくいときは焦らず、水位の差が縮まるタイミングを待つことも、大きな助けになります。
そして、無事に脱出できた後も、水没した車を自己判断で動かさず、専門家による点検を受けることを忘れないでください。日頃からハザードマップで危険な場所を把握し、大雨の予報が出ている日には無理に車を出さないという心構えを持つことが、何よりの備えになります。この記事が、いざというときの落ち着いた判断の助けになれば幸いです。
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