
この記事でわかること:
近年「OBD検査(オンボード・ダイアグノーシス検査)」という言葉を耳にする機会が増えています。これは2024年から本格的に導入が始まった、車の「電子的な健康診断」とも言える新しい車検方式です。本記事では、OBD検査とは何か、従来の車検との違い、対象車種、費用、不合格になるケース、そして整備士が教える対策や注意点を、初心者にも分かりやすく丁寧に解説します。
- OBD検査とは?車の“電子診断”の時代へ
- 従来の車検とOBD検査の違い
- OBD検査の対象車と導入スケジュール
- OBD検査の具体的な流れ
- OBD検査で不合格になる主なケース
- OBD検査にかかる費用は?
- OBD検査で整備工場が変わる?
- OBD検査対策:ユーザーができる準備と注意点
- 今後の車検はどう変わる?OBD検査の未来
- まとめ:OBD検査は“見えない異常”を守る新時代の車検
OBD検査とは?車の“電子診断”の時代へ
OBDとは「On-Board Diagnostics(オンボード・ダイアグノスティクス)」の略で、直訳すると「車載自己診断システム」です。近年の自動車にはエンジンやブレーキ、排出ガス制御、エアバッグ、運転支援システムなど、数十個もの電子制御ユニット(ECU)が搭載されています。これらの制御装置は常に車の状態をモニタリングしており、異常を検知すると記録し、ドライバーに警告灯などで知らせる仕組みです。
つまり、OBD検査とはこの自己診断機能を利用して、車の内部状態を「診断機(スキャンツール)」でチェックする検査です。これまでの車検では、目視や測定機器を使って外観や排気ガスを確認していましたが、今後は電子データに基づく“車の健康診断”が主役になっていきます。
なぜOBD検査が導入されたのか
背景には、自動車の高度な電子制御化があります。従来は整備士が目で見て音を聞き、経験で異常を判断していましたが、現代の車はエラーが電子制御ユニット内に記録されるため、人間の感覚だけでは異常を見抜けない場合が増えてきました。
また、排出ガス規制の強化も導入の大きな理由です。エンジンの燃焼制御や触媒の働きが正常に機能していないと、見た目には分からなくても排ガス性能が大きく悪化します。OBD検査では、排出ガス制御装置が正しく作動しているかも電子的にチェックします。
従来の車検とOBD検査の違い
これまでの車検(保安基準適合検査)では、ライト、ブレーキ、排ガス、下回りなどを中心に「外から見て確認」する方法が主でした。これに対し、OBD検査では「車の中身(電子データ)」を直接確認します。
たとえば、ABS(アンチロックブレーキシステム)やエアバッグ、衝突被害軽減ブレーキ(自動ブレーキ)などの警告灯が点灯している場合、それが「電子制御上の不具合」として記録されていれば、不合格の対象となります。
つまり、OBD検査の導入によって、「警告灯を無視して車検に通す」ことはできなくなりました。これが、従来の車検との最大の違いといえるでしょう。
OBD検査は車検や12か月点検とセットになっているので、こちらもどうぞ
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OBD検査の対象車と導入スケジュール
国産車
国土交通省によると、OBD検査は段階的に導入されています。
- 2021年(令和3年)10月~:試行運用(OBD情報を確認のみ)
- 2024年(令和6年)10月~:本格導入(新型車対象)
- 2025年以降:対象車拡大予定
まず対象となるのは、2021年10月以降に発売された「OBD車検対応車」です。国産メーカーではトヨタ、日産、ホンダ、マツダ、スバルなどの新型モデルがすでに対応しています。古い車や軽自動車でも、将来的には対象になる可能性があります。
輸入車
令和7年10月1日より、輸入車に対するOBD検査が開始されました。
対象となる輸入車:令和4年10月1日以降の新型車(フルモデルチェンジ車)
対象外となる車両:並行輸入自動車、輸入自動車特別取扱自動車(PHP)、大型特殊自動車、二輪自動車
対象車の車検証備考欄には、「OBD検査対象」の記載があります。
ただし、OBD検査対象車であっても、以下に該当する車両については、OBD検査は不要となります。
・型式指定年月日から2年を経過していないもの
・初度登録(検査)年月の前月の末日から起算して10か月経過していないもの
対象外車の扱い
2024年時点では、古いOBD非対応車はこれまで通り従来方式で車検を受けられます。ただし今後は、対応車種が主流になるため、検査機器を持たない整備工場では車検ができなくなるケースも出てきます。
OBD検査の具体的な流れ
OBD検査は、整備工場で車検の点検と同時に行われます。基本的な流れは次の通りです。
1. スキャンツール接続
整備士が車両のOBDコネクタ(運転席足元付近)に診断機を接続します。このツールが車両のコンピュータと通信し、エラーコードや作動状況を読み取ります。
2. 診断データの取得
エンジン、排ガス、ブレーキ、ステアリング、エアバッグ、運転支援システムなど、複数のECUから診断情報を収集します。異常コード(DTC:Diagnostic Trouble Code)が検出されると、その内容が一覧で表示されます。
3. 不具合の有無を判定
診断結果が基準値を超えている場合や、排ガス関連システムにエラーが残っている場合は、車検不合格となります。整備・修理を行い、エラーをリセットしたうえで再検査を受ける流れです。
4. 診断結果の記録
検査結果は電子データとして国交省に送信されます。今後は「電子車検証」とも連動して管理されるため、整備履歴や異常履歴が国レベルで共有される仕組みが整いつつあります。
OBD検査で不合格になる主なケース
以下のような状態では、OBD検査に通らない可能性があります。
- エンジンチェックランプ(MIL)が点灯している
- 排出ガス関連システムに異常コードがある
- ABSやエアバッグなど安全系システムにエラーが記録されている
- 過去の修理で故障コードを消さずに放置している
- 社外チューニングやECU書き換えにより通信異常が発生している
特に注意が必要なのは「警告灯が一時的に消えている場合」です。エラーは内部に記録が残るため、見た目に問題がなくても診断では検出されます。
OBD検査にかかる費用は?
基本的には車検費用に含まれますが、OBD検査用の診断手数料が上乗せされるケースがあります。一般的には1,000〜3,000円程度です。
ただし、異常が見つかって整備や再検査が必要な場合は、追加費用が発生します。エンジンや排ガス関連のセンサー交換などは数万円単位になることもあるため、事前のメンテナンスが重要です。
OBD検査で整備工場が変わる?
今後、OBD検査に対応できる整備工場とそうでない工場の差が広がっていきます。国の認可を受けた「特定整備事業者」でなければ、OBD検査対応車の車検を行えません。スキャンツールを扱える人材や設備を持つ工場が求められる時代です。
ユーザーとしては、OBD対応車を持っている場合、「OBD対応の車検ができる工場かどうか」を事前に確認しておくのが安心です。

OBD検査対策:ユーザーができる準備と注意点
OBD検査に向けて、ユーザーができる主な対策は次の3つです。
① 警告灯を放置しない
「一時的に点いたけど消えたから大丈夫」と放置してはいけません。内部にエラー履歴が残っている可能性があり、OBD検査で検出されます。
② 定期的に点検・オイル交換を行う
センサー類や排ガス関連装置はオイルや燃焼状態の悪化でエラーを出すことがあります。こまめな点検が一番の予防策です。
③ 社外パーツやECUチューニングに注意
排ガス制御やスロットル制御に関係する改造をしていると、通信エラーで不合格になる場合があります。OBD検査時代では、純正ECUの維持が安全です。
今後の車検はどう変わる?OBD検査の未来
OBD検査の導入によって、車検は単なる「形式的な検査」から「予防整備を含めた健康診断」へと進化します。今後は、車の状態をオンラインで管理し、異常が出る前に整備を促す仕組みも進むでしょう。
国交省は将来的に「遠隔診断」や「データ共有型車検」の導入も見据えており、車両データをもとに自動で整備記録や検査結果が更新されるようになる可能性があります。
まとめ:OBD検査は“見えない異常”を守る新時代の車検
OBD検査は、電子制御化が進んだ現代の車に合わせた「新しい車検方式」です。目に見えないエラーを検出し、より安全で環境にやさしい車社会を支える重要な制度といえます。
導入初期は戸惑う部分もありますが、ユーザーにとっても「重大トラブルを未然に防げる」大きなメリットがあります。今後は、OBD対応の整備工場選びや、日常的なメンテナンスがこれまで以上に重要になります。
つまり、OBD検査は単なる“新ルール”ではなく、クルマと長く付き合うための“健康管理の第一歩”なのです。